| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨 ESJ63 Abstract |
企画集会 T01-2 (Lecture in Symposium/Workshop)
野生生物の観測には、必ず誤差がつきまとう。誤差の中でも、本当は存在あるいは生存しているのに発見できない擬陰性はしばしば問題となる。本研究では、ヒメボタルの標識再捕獲調査データに対し状態空間モデルを適用し、発見率を考慮した個体数推定を試みた。観測データは標識された個体が「発見」あるいは「不発見」の状態として記録されているが、しばらく「不発見」が続いた後に「発見」となった個体があることから、発見率を考慮する必要がある。状態空間モデルの生態プロセスにおいて、ヒメボタルの各個体の真の状態を「羽化していない」、「羽化しており生存」「羽化しており死亡」の3段階に区分した。羽化していない状態から羽化しており生存の状態への推移は羽化率によって決定され、羽化しており生存から死亡の状態への推移は生存率によって決定される。観測プロセスでは始めて発見された個体は必ず「発見」の状態となり、標識個体は「発見」あるいは「不発見」のいずれかの状態を取る。MCMC法によるパラメータの事後分布推定の結果、調査回ごとに羽化して生存しているヒメボタル個体数を推定できた。ただし、調査地でほぼ羽化が終了しかつ生存している個体が少ない調査回では、個体数の推定誤差は非常に大きくなった。羽化個体数は調査回ごとに大きく異なっており調査期間中に2度のピークがあった。調査期間の終盤には羽化はほぼ見られなくなっていた。発見率を考慮することで、完全ではない観測データから個体数をより精度高く推定できる可能性が示唆された。