| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


企画集会 T18-2 (Lecture in Symposium/Workshop)

都市の生物多様性保全と害虫問題

*保坂哲朗,沼田真也(首都大・都市環境)

都市における生物多様性の保全は、都市の景観デザインにおけるキーワードの一つになっている。その目的の一つには、生物多様性のもつ生態系サービスを活かした生活環境の改善があげられる。しかしながら、そもそも生物多様性の保全と快適な都市生活は単純に両立するものであろうか。生物多様性とはあらゆる生物、すなわち人間にとって有害・不快な生物をも含む概念であり、都市はそれらを制御・排除することで快適性を確保してきた。近年、都市の生物多様性やその生態系サービスについて関心が高まる中、人間生活を脅かす負の生態系サービス(ecosystem dis-service)の問題が指摘されはじめた。著者らは、都市における生物多様性保全によって野生生物と人間の軋れきが増加する可能性があると考え、東京都の離島をのぞく全53自治体に寄せられた20年間の害虫・害獣に関する相談件数データを用いて、都市住民と生物の軋轢の時空間的変動パターンの分析を行った。

時間的変動パターンとしては、かつて主要であったネズミや吸血昆虫(ノミ、蚊など)など屋内動物の相談件数が減少傾向にある一方、ハチ類や不快動物(ヘビ、ハクビシンなど)といった屋外動物の相談件数は増加傾向にあることが分かった。特に近年は、ハチ類が全相談件数の50%を占めていた。一方、空間的変動パターンとしては、各自治体の人口あたり害虫相談件数と緑地面積率(森林、農耕地、公園)との相関を解析したところ、多くの害虫の相談件数は緑地面積率と負または有意でない相関を示したが、スズメバチやヘビなど一部の主要な屋外動物に関しては有意な正の相関が見られた。したがって、都市における緑地面積の増加は、これらの屋外動物と住民の軋れきを増加させ、対処にかかる住民や行政のコストを増大させる恐れがある。生物多様性保全において都市住民の支援を得るためには、負の生態系サービスや住民の好き嫌いなどの問題も考慮する必要があるだろう。


日本生態学会