| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨 ESJ63 Abstract |
企画集会 T18-3 (Lecture in Symposium/Workshop)
近年、子供達が日常生活で自然と関わる頻度が大きく減少している。こうした自然と関わる「経験の消失(extinction of experience)」は、環境保全上、深刻な負の影響を及ぼし得ることが指摘されているが、生物多様性保全に及ぼす影響は分かっていない。本研究では、東京都の小学生を対象としたアンケート調査を通して、子供の日常的な自然体験が生物多様性に対する親近感および保全意識に及ぼす影響を明らかにした。
アンケート調査には、東京都府中市に住む397人(9-12歳)の小学生が参加した。アンケートでは、子供達の日常的な自然体験の頻度と生物多様性に対する親近感・保全意識を聞き取った。自然体験は、直接的な体験(緑地の訪問、動植物の観察など)と仮想的な体験(自然にまつわるテレビや本の閲覧など)に分けて、個別に頻度を聞き取った。また、生物多様性に対する親近感・保全意識を計測する際、子供達に16種類の地域の普通種(鳥、チョウ、ハチ、ミミズ、ダンゴムシ、ヘビなど)の写真を提示し、それらの種に対する彼らの好き嫌いなどを聞き取った。
調査の結果、子供達の生物多様性に対する親近感・保全意識は、自然体験頻度と正の関係にあることが分かった。パス解析を行った結果、子供の自然体験が生物多様性保全意識に及ぼす影響は親近感を介することが示された。また、直接的な自然体験と仮想的な自然体験が子供の親近感に及ぼす影響を精査した結果、直接体験は仮想体験より強い影響を持つことが分かった。以上の結果から、日常生活で頻繁に自然と触れ合う子供は地域の生物多様性に対して強い愛着心を持ち、結果としてそれらを守る意思が強くなることが示唆された。