| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨 ESJ64 Abstract |
一般講演(口頭発表) A02-03 (Oral presentation)
国内外を問わず、水産資源評価のための従来の資源量推定は、漁業者によってなされた漁獲に関するデータを、VPAや統合モデルなどの資源評価モデルに入力することで実施されてきた。統計学的推定の手法に依拠した資源評価モデルは、無作為抽出されたデータを計算の対象とすることで初めて、最も正しい資源量を推定することができる。しかしながら、漁業者は個体群から魚を無作為抽出しているわけではない。資源評価モデルには、漁獲データに内在する非無作為抽出性を補正する枠組みも組み込まれてはいるものの、その効果には限度がある。そのような背景から、漁業から独立した資源量推定のための指標を確立することの必要性が、資源評価の現場では叫ばれている。ひとつの打開策として、豪州CSIROの研究者を中心として、無作為抽出を介して得られた対象種の中立遺伝情報を用いることで、漁獲量データを必要としない資源量推定のための新しい手法(クロスキン法)の開発が進められてきた。これは、野外で無作為に採集された世代既知の個体から中立遺伝情報を読み出し、近親関係(たとえば親子関係)のペア数と各世代の標本数を適切な統計モデルに代入することで、野外個体群サイズの推定値を得るという方法である。従来のモデルは、思い切った近似を施すことで、きわめて単純な式で表現されているが、おそらくこれは資源評価の現場での利便性を意図したものである。これに対して、本研究ではそのような近似を一旦排して、親子ペア数、半兄弟ペア数、標本数をパラメータとする多次元離散分布の質量関数を書き下し、野外個体数や繁殖成功の分布をベイズ推定する一連の試行を実施した。モデルが近似に依らないために、MCMCによる事後分布の描出には非常に長い計算時間を要したが、全パラメータに関して定常分布への収束が目視レベルでは確認できた。