| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(口頭発表) B01-07  (Oral presentation)

鳥と火山とどちらが強いか?小笠原諸島西之島2013年噴火の影響

*川上和人(森林総合研究所)

 西之島は七島・硫黄島海嶺に属する孤立した火山島で、最も近い島まで約130kmある。この島ではこれまでに11種の海鳥の繁殖と6種の植物の分布が記録されている。しかし、2013年から西之島の直近にある海底火山の噴火により溶岩が噴出し、旧陸地の大部分が失われ新たな陸地が形成された。溶岩の噴出は約2年間続き、約0.3 km2だった面積は約2.7 km2に拡大した。このうち旧島由来の陸地は約0.5haを残すのみとなっている。
 噴火により西之島の生物相は攪乱され、種数も分布も減少していると考えられる。今後は、旧島由来の陸地に生残した種が新たな陸地に拡散すると共に、島外から生物が渡来し新たな生物相が形成されると考えられる。この環境は、孤立した島嶼における生態系の成立プロセスを実証する自然の実験場と言える。
 しかし、噴火の危険からこの島への上陸は制限されていたため、生物相の変化は不明であった。そこで、海上保安庁、NHK、東京大学地震研により撮影された空中写真等を分析すると共に周辺海域での観察調査を行い、海鳥相の変化を明らかにした。また、2016年8月に上陸の制限が解かれたため、新青丸(海洋研究開発機構、共同利用航海KS-16-16)により同年10月に上陸調査を行い、旧島部の生物相を明らかにした。
 その結果、西之島では噴火活動中もカツオドリ、アオツラカツオドリ、オナガミズナギドリが旧島部で営巣しており、またカツオドリは新たな陸地でも繁殖を初めていることが明らかになった。クロアジサシ等のアジサシ類は営巣の証拠はなかったが、新たな陸地に飛来していることが確認された。
 上陸調査では上記3種の営巣を確認すると共に、アトリやハクセキレイ等5種の渡り鳥が観察された。また、オヒシバ、スベリヒユ、イヌビエの生残およびツルナの種子の存在、クモやハサミムシ等の節足動物の存在も確認された。今後この島のモニタリングを継続し、生物相変化を把握する必要がある。


日本生態学会