| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(口頭発表) B01-08  (Oral presentation)

学内ビオトープと生態系調査

*原口寿章, 雨宮隆(日本工業大学)

 2010年に名古屋で行われたCOP10では、生物多様性の保全をいかに図り自然環境の保護を進めるかが重要なテーマとなった。国内でも各種の事業体で、生物多様性保全のための取り組みが推進されている。このような取り組みの中でも、利用しやすいと考えられているものがビオトープである。しかし、ビオトープを利用した生物多様性の時間的成長を計測し、評価するための一般的な手法は確立していないのが現状である。 本研究では、大学内の遊水池を利用したビオトープ(学内ビオトープ)を形成し、周辺での生物多様性の時間的推移を2年4か月に亘り計測する中で、多様性の成長の評価の手段として使いやすい一般的手法を見出すことを目標とした。研究の方法としては、1 遊水池内に2つの生物の住処(コアエリア)を設置し、遊水池周辺の生物の増加を図った。2 学内ビオトープとは別個の(類似の地勢環境にあるが)、既に成長したビオトープの対照区(2箇所)を加え、3箇所で生物群集の変化を確認した。3 生物調査にはラインセンサス法を用い、調査対象は鳥類、トンボ類、蝶類とした。4 生物群集の比較指標として、個体数、種数、対数逆Simpsons指数、Shannon指数、Pielouの均衡度指数、および相対優占度曲線を利用した。 ラインセンサス調査の結果から、生物の個体数や種数の年間累積値の成長は、「学内ビオトープ」が2つの対照区に比べ大きく、かつ、毎年の月別の相対優占度曲線の対数値勾配が、総体的に小さく(緩やかに)なる傾向になることから、「学内ビオトープ」の生態系は成長しつつあるといえる。一方、多様度指数の比較では、年間の変化は見られるものの、生態系の発展具合として捉えにくいため、一般的には利用しにくいと考えられる。特に、小規模なビオトープのような生態系の生物多様性の時間的成長を計測するには、1 個体数、2 種数、3 相対優占度曲線の対数値勾配を合わせて見ていくことが有効と考えられる。


日本生態学会