| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨 ESJ64 Abstract |
一般講演(口頭発表) C01-09 (Oral presentation)
中国南部原産のツマアカスズメバチ(以下、ツマアカ)は2000年代に入ってから韓国やヨーロッパに侵入し、分布域を拡大している侵略的外来生物である。本種は2012年以降に日本の長崎県対馬での侵入が確認され、その後島内で分布を拡大しつつある。2015年には福岡県北九州市で営巣が確認され、さらに2016年には宮崎県日南市で越冬女王が1個体採集されたことから、九州本土や本州への上陸も時間の問題と懸念される。本種は訪花昆虫を選好して捕食することから生態影響も大きいため、2015年に特定外来生物に指定された。現在、本種の効果的な防除手法が必要となっている。そこで我々は薬剤ベイトを用いた化学的防除手法の開発を試みた。巣への持ち帰り型ベイト剤として遅効性をもつ昆虫成長制御剤が有効と考え、ツマアカの代替としてコガタスズメバチおよびオオスズメバチの幼虫を用いて、室内レベルの急性経口毒性試験を行った。2種の幼虫を個別に飼育し、IGR剤100 ppmを混合したカルピスを毎日10 µl各個体に投与した結果、2種ともに全く蛹化しなかった。薬剤濃度1 ppmでも、コントロール区に比べて蛹化率は極めて低く、IGR剤のスズメバチ幼虫蛹化を阻害する濃度・薬量の範囲が示された。次に、対馬でツマアカ野生巣を用いた野外試験を実施した。カルピスを用いた液体ベイトおよびキャットフードを用いた固体ベイトを設置した結果、いずれもワーカーが繰り返しベイトを巣に持ち帰る行動が確認された。3—5時間ベイトを持ち帰らせた巣を10—13日後に撤去し、内部を調べたところ、無処理巣に比べて成虫個体数の著しい減少が確認された。以上の結果からIGR剤を用いた薬剤ベイト手法はツマアカの防除に有効であることが示唆された。