| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨 ESJ64 Abstract |
一般講演(口頭発表) D01-09 (Oral presentation)
生物群集の形成パターン(種多様性や構造における変化)の予測には,長期モニタリングの代わりに存続期間の異なる生息場所を比較するアプローチがしばしば用いられる.しかし,その形成過程において未知の環境変動イベントや時間と相関する要因があるならば,群集の時間変化と環境条件による影響の区別は難しくなる.止水生態系では上述のアプローチによる群集形成の予測が試みられているが,水域サイズのように生息場所の存続期間に影響を及ぼす要因や過去の環境条件はほとんど考慮されていない.本研究では,生息場所条件とその履歴を考慮できる都市と里山の人工的水域を対象として,湛水期間が水生昆虫のメタ群集に及ぼす影響の解明を試みた.
調査は,大阪府内とその近隣の11サイトの一時的水域(主に水田:湛水後約1ヶ月)と恒久的水域(主にビオトープ池:2~21年)からなる計32水域を対象とした.各水域は湛水期間を通じて約50 cm以下の最大水深,体長10 cm以上の魚類の不在,約70%以上の樹冠開空率などの条件を満たし,一時的,恒久的水域間で水域面積は同程度であった.2015,2016年の5月下旬~7月上旬に底生昆虫の定量的なすくい採りを実施した.
調査の結果,一時的,恒久的水域でみられた全種数はそれぞれ58種,94種(全水域:109種)と恒久的水域において高かったが,水域あたりの平均種数はそれぞれ16種,14種であり,尤度比検定において有意差はなかった.また,種構成における水域間の多様性(多変量等分散性)は恒久的水域において有意に高かった.栄養段階と生活型に基づいて機能群構造を評価すると,優占群が一時的,恒久的水域間で異なった.したがって,水生昆虫のメタ群集形成は,経年的に種構成が水域間で多様化しつつも機能群レベルでは方向性をもって変化するパターンをもつと考えられた.本講演では,都市と里山における形成パターンの違いについても考察する.