| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(口頭発表) D01-11  (Oral presentation)

空間相関と観測誤差を考慮した固着性生物群集のための多状態動的サイト占有モデル

*深谷肇一(統計数理研究所), Royle, J. Andrew(USGS Patuxent Wildlife Research Center), 奥田武弘(国際水産資源研究所), 仲岡雅裕(北海道大学北方生物圏フィールド科学センター厚岸臨海実験所), 野田隆史(北海道大学地球環境科学研究院)

 固着性生物群集の推移確率は、永久コドラート内の固定された定点上の占有状態を経時的に記録することで推定される。しかし実際には、個々の定点が標識されていないために、占有状態の再測定の際にその位置を正しく特定できないことがある。定点の位置の特定に関するこうした観測誤差は、推移確率の推定を偏らせてしまうことが知られている。
 本研究では、この問題を解決するための解析的なアプローチとして、定点の位置の特定に関する観測誤差を考慮した新しい多状態動的サイト占有モデルを提案する。このモデルは定点上の占有状態を潜在変数として含む階層モデルであり、定点の位置が誤特定された場合のデータの確率分布が定点近傍の群集構造に依存すると仮定して、偏りの少ない推移確率の推定を行うものである。定点近傍の群集構造は多変量カーネル平滑化によってモデル化される。観測誤差を考慮した推移確率の推定にはいくつかの方法が提案されているが、本研究は群集の空間構造が観測に及ぼす影響に着目した点が異なっている。
 コンピュータシミュレーションによって、定点近傍の群集構造がデータの条件付き分布に影響する場合には、従来の手法による推移確率の推定は偏ることが示された。提案したモデルを岩礁潮間帯から得られた群集動態のデータに当てはめ、従来の手法の結果と比較したところ、推移確率および回転率や減衰率などの動態特性の推定値が大きく異なり、群集の空間構造を考慮しない従来の推定では群集動態の「速さ」が過大評価されることが明らかとなった。
 マルコフモデルに基づく群集動態の推測や予測のための新しい分析の道具として、提案モデルは様々な生息環境の固着性生物群集に広く適用可能である。モデルは群集の空間構造を推定できることから、固着性生物の局所的な個体間相互作用により駆動される非線形な群集動態を推測することもできるだろう。


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