| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(口頭発表) D02-01  (Oral presentation)

餌生物の多い場合の同位体混合モデル解析

*長田穣, 松林順(総合地球環境学研究所)

 すべての生物は成長や繁殖を行うために外部から資源(物質やエネルギー)を取り入れなくてはならない。そのため、生物間の資源の流れを追跡することは、生物個体群の攪乱への応答や群集の存続性を調べるうえで大変重要であり、生態学では古くからの関心事であった。安定同位体分析は、現在、そうした生物間の資源の流れを容易に追跡することを可能にする道具のひとつとして知られている。また、生態学では安定同位体分析で得られた結果を客観的に解釈するため、同位体混合モデルと呼ばれる統計手法が発達している。なかでも、ここ十年ほどで発展したベイズ同位体混合モデルは推定に関わるさまざまなバイアス・不確実性を考慮することで、多くの研究でその有用性を示してきた。
 しかしながら、同位体混合モデルにはひとつ大きな問題点が存在している。それは注目する生物の資源(餌)が多い場合に、推定値の最適解がひとつに定まらない不良設定問題になることである。この問題が生じると、たとえ推定できたとしても、推定値の代表値(平均値や中央値)の意味があいまいになり、推定値の生物学的解釈が困難になる。この問題に対処するため、演者らは既存の安定同位体混合モデルに改良を加え、推定値の不良設定問題の程度を定量化し生物学的解釈を容易にする枠組みを開発した。開発した手法を同位体解析で代表的なデータとして用いられている、4種の餌資源を食べるコクガンのデータに適用したところ、1)異なる餌資源によって不良設定問題の程度は大きく異なる、2)似たような推定値をもつ餌資源でも、不良設定問題を考慮すると実際には全く異なる生物学的意味をもつ、ことが明らかになった。本講演で紹介する枠組みは、すべての安定同位体混合モデルで適用可能であり、安定同位体解析から健全な結論を導くうえで大変有用である。


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