| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨 ESJ64 Abstract |
一般講演(口頭発表) D02-08 (Oral presentation)
日本国土の陸上生態系による炭素固定能の時空間分布の現状診断と将来予測を行うためには、日本の森林の約30%を占めるスギ・ヒノキによる常緑針葉樹林における炭素動態の予測研究を生態学的観点と地球科学的観点から進めることが重要である。本研究では、スギ・ヒノキが優占する冷温帯常緑針葉樹林の温暖化への応答について、炭素・水・熱循環を再現可能な生態系モデル(NCAR/LSM)を利用して調査した。このモデルは、岐阜県高山市のAsiaFlux TKCサイトにおける各種生産量・呼吸量の観測データを利用し、事前に検証・最適化された。その上で、年平均気温が約2℃上昇した場合の予測シミュレーションにより将来気候の炭素収支を推定し、現在気候(2006-2010年の平均)での炭素収支との比較を行った。その結果、温暖化は光合成量を増やし、その増加量は特に春先(3月から4月)に最も大きく、ついで冬季(12-2月)に大きいことが予測された。これまでのタワーフラックス観測や地上カメラ観測による知見から、春先の光合成量の増加は主に個葉の光合成能の増加に起因し、冬季の光合成量の増加は冠雪日数の減少に伴うものと示唆された。また、この光合成増加量の季節変化は、純生態系生産量の増加量の季節変化にも影響していた。本研究で予測された冷温帯常緑針葉樹林の光合成増加量の季節変化は、Saitoh et al. (2015、Ecol Res)で予想された冷温帯落葉広葉樹林の光合成増加量の季節変化とは異なっており、今回の研究により両植生タイプの葉群フェノロジーの相違性が炭素収支の温暖化応答の相違性に顕著に影響することが示された。