| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨 ESJ64 Abstract |
一般講演(口頭発表) E02-05 (Oral presentation)
直接観察による行動記録は、野外で動物の行動データを収集する最も一般的な方法のひとつである。とくに霊長類の調査では集団を人馴れさせて直接観察することが多い。しかし、対象種の生態的特徴や環境条件などの制約によって、直接観察が困難な場合も多い。400頭を超える大集団を形成し、視界の悪い熱帯林の林床を一日に約7kmも移動するマンドリル(Mandrillus sphinx)は、このような「直接観察が困難な動物」の典型である。本発表では、ガボン共和国ムカラバ-ドゥドゥ国立公園に生息するマンドリルの行動と生態について、動画データを用いて行った研究を紹介する。
まず、研究者によって意見の分かれていた集団構造の階層性の有無について、集団の行列移動の映像から解明を試みた。集団が開けた場所を横断する行列をビデオカメラで撮影し、映像から個体順序の規則性や行動を調べた。その結果、マンドリルの行列は階層社会を持つ近縁種より、階層的でない社会を持つ近縁種のものと類似していることが明らかになった。
次に、それまで野生下では観察が困難だったメスの繁殖季節性とメスの発情に伴うオスの集団内流入のパターンについて、広域カメラトラップ(自動撮影装置)調査によって明らかにした。約400km2の調査域内に100台以上のカメラトラップを2年間設置した。得られた動画データから、集団内の乳児持ちメス・性皮腫脹メス・オトナオス・ワカモノオスの数をそれぞれカウントし、季節的増減パターンについてGLMM多項式回帰によって推定した。その結果、メスの繁殖は多くが乾季に発情し雨季に出産するという季節性を示した。さらに、優位なオトナオスは劣位なワカモノオスと異なり、発情メスが減る交尾期後期にもなお集団内にとどまり、発情メスを高頻度で近接・メイトガードすることがわかった。映像の詳細な分析は、直接観察が困難な動物の行動研究において強力な武器になり得る。