| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(口頭発表) E02-08  (Oral presentation)

遺伝子解析による佐渡島加茂湖産ホソウミニナの由来推定

*伊藤萌, 小林元樹, 小島茂明(東大大気海洋研)

生物の分布域および遺伝的地理構造は、その生物の持つ分散能力に強く依存する。しかしながら、人間の商業活動もまた、その分布に大きく影響を与えることが多く報告されている。新潟県佐渡市の加茂湖はかつて淡水湖であったが、20世紀初頭に湖口を開いて汽水湖となり、その後、他県産の種牡蠣を用いた養殖がはじまった。水産種苗の導入に紛れて、他地域へと移入した生物の例は世界各地で報告されており、加茂湖でも牡蠣種苗に伴って移入したと考えられる海産生物が定着している。北海道から九州の沿岸域で多産する直達発生巻貝のホソウミニナ Batillaria attramentariaでは、ミトコンドリアDNAの解析から2つ、核DNAの解析からは3つの遺伝的に異なる地理グループの存在が示されており、また、近隣の地域個体群間でも遺伝的な分化が見られる。ホソウミニナで見られる遺伝的地理構造や各個体群の独立性は、本種の分散能力の低さに由来すると考えられる一方で、ホソウミニナが水産種苗と共に輸送され、他所に定着したケースも報告されている。ホソウミニナは加茂湖でも存在が確認されているが、その由来は定かではなく、水産種苗と共に移入してきた可能性も考えられる。本研究では、加茂湖のホソウミニナの由来を遺伝子解析によって明らかにすることを目的とした。加茂湖内2地点から採集された26個体のホソウミニナについて、ミトコンドリアCOI遺伝子の部分塩基配列および、核DNA上に存在する14のマイクロサテライト遺伝子座の多型を決定した後、日本各地の個体群と遺伝的構造の比較をおこなった。遺伝子解析の結果から、加茂湖産ホソウミニナ個体群はCOI遺伝子でもマイクロサテライト遺伝子座でも、近隣の日本海側個体群とは異なる構造を示し、太平洋側個体群に近いという結果が得られた。本個体群は、汽水化以降に水産種苗と共に持ち込まれた個体に由来すると考えられた。


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