| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨 ESJ64 Abstract |
一般講演(口頭発表) E02-09 (Oral presentation)
個体群動態研究では、成長速度や個体群サイズの推定値は代表的な結果のひとつであり、聞く側にとってもわかりやすい。一方、例えば成長率に影響を与えている要因の抽出などでは、結果は一転、わかりにくいものとなる。重回帰分析におけるp値にせよAICによる変数選択にせよ、用いる統計手法によって往々にして結果は異なってくるし、選択の根拠は直観的に容易に理解できるものとは言い難い。
概して、統計解析を伴うと成果はわかりにくいものとなる。それは、統計解析における3つの考え方、頻度主義、ベイズ主義、尤度主義が混在していることがひとつの原因である。さらに、統計を用いない物理学帝国主義もあり、数理生態学で採用されている。
4つの主義は、科学方法論として古くから議論されてきているが、野外環境が主役である生態学において成熟しているとは言い難い。
統計モデルでは、データは確率分布の実現とみなし、仮想的に考える「真のモデル」も確率分布である。一方、物理学帝国主義では理論値が存在し、それをデータと比較する。
頻度主義はp値万能主義として濫用されている。フィッシャー流とネイマン-ピアソン流が混同されていることが、その誤用に拍車をかけている。コントロールを正確に設定し帰無仮説や対立仮説が明瞭に記述できる場合が稀な生態学で機能するものなのか、議論も検証も不十分である。
ベイズ主義は、今日流行している階層ベイズモデルと別物といってよく、生態学の現場に適用できるとは思えない空論である。
尤度主義では、2つのモデルの相対比較を行う。仮に2つとも真理からほど遠かった場合、その相対比較で何が導かれるのだろう。
生態学の中で、個体群生態学は、理論、データ収集技術や精度、両者を結ぶ統計モデル、いずれの面においても一歩、進んでいる。この分野で科学方法論を確立することは急務の課題であり、そこで最も出遅れているのは統計学に関する側面である。