| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(口頭発表) F01-03  (Oral presentation)

樹木実生の代謝スケーリング則の検討 ーヒノキ苗を例としてー

*小川一治(名古屋大学)

 Enquistらによる最近の集約的な研究であるWBE(West/Brown/Enquist)代謝理論(e.g., West et al. 1997; Enquist et al. 1998; Brown and Enquist 2000)によれば植物の呼吸、総光合成などの代謝速度と植物体量との間にはスケーリング則(ある種のアロメトリー則または巾乗則)が成立し、そのスケーリング指数は3/4であると指摘された。ところが、Reich et al. (2006)により呼吸速度に関するその指数は1であると主張され、Mori et al.(2010)の研究例によれば成育の初期段階の樹木個体である樹木実生でスケーリング指数は1であることが強調された。このMori et al.の考えは、既に報告されているOgawa et al. (1985a)、小川(1989)のヒノキ実生苗の結果と一致している。
 しかしながら、これらの呼吸速度は季節的な瞬間的な速度であって、いくつかの仮定を設定して補正されている。よって、この季節的な,特に温度の影響を排除するため年間量ベースで呼吸量、一次総生産量、枯死量などの年間の代謝量について、最近よく使用されている統計処理(SMA, Falster et al. 2006; Warton et al. 2006)を考慮し、2年生ヒノキ苗木(n=80)を用いて考えてみた(cf. 小川ら 1985b)。
 その結果、スケーリング指数はいずれの年間代謝量においても1より有意に大きな値を示し、大きい個体ほど呼吸や光合成などに代表される代謝活性が高くなる傾向にあった。また、年呼吸量/年総一次生産量比で定義される年呼吸(炭素)消費効率は負のスケリーング指数を示し、個体が大きくなるほど小さくなり、大きい個体ほど光環境がよく光合成が効率よく行われていることが推察された。


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