| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(口頭発表) F01-07  (Oral presentation)

亜高山帯針葉樹における枝の水輸送の維持機構

*種子田春彦(東京大学), 小笠真由美(森林総合研究所), 矢崎健一(森林総合研究所), 丸田恵美子(神奈川大学), 大條弘貴(シンプレックス(株)), 大塚晃弘(旭化成(株))

今回の報告では、針葉樹の茎で木部液の凍結融解によって起きる通水阻害の新たなメカニズムを提唱する。風衝環境に棲息する亜高山帯性常緑針葉樹は、冬季に強い乾燥ストレスに曝される。これは、雪氷による葉の傷害部位からの蒸散と土壌凍結による地上部への水供給の断絶とが引き金になって起きることが知られている。こうした乾燥ストレスがさらに強まると木部張力が高まり、繰り返し起きる木部液の凍結融解とともに枝の通水阻害を引き起こす。ヨーロッパアルプスに生息するPicea abiesを用いた研究では、こうした冬季に起きる通水阻害は、木部液が凍結した際に生じた気泡が仮道管内腔へ侵入することで起きることが報告されている(Mayr et al. 2006)。一方で、北八ヶ岳の縞枯山の北麓に生育するシラビソ(Abies veitchii)の1年生枝では、2014年2月に木部面積の60%で染色液が流れず通水阻害が起きていたにもかかわらず、cryo-SEMによる観察からは木部にある大部分の仮道管は水で満ちており、気泡が侵入していた仮道管は全体のわずか10%に過ぎなかった。一方で、隣接する仮道管間の物質移動の経路となる壁孔では、壁孔内部にある壁孔膜が偏った位置にあり壁孔孔を塞いだ状態(pit aspiration)になっているものが高い頻度で見出された。6月になると通水阻害は回復し、壁孔膜は通常の位置にあるものが数多く観察された。以上の結果から、シラビソの1年生枝においては、木部液の凍結で誘導される木部への気泡の侵入ではなく、壁孔膜の閉鎖によって通水阻害が起きることが示された。


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