| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(口頭発表) F01-09  (Oral presentation)

落葉環孔性樹種の樹液流にみられる間欠性の検証

*依田清胤(石巻専修大学・理工)

 樹体内の樹液流動態は、葉の蒸散や根の吸水と連動して周辺の水環境と密接に関連している。この根から葉にいたる樹液流の連続性の維持・修復機構については、連続性消失のおもな原因となるキャビテーションの発生とその回復などを焦点に、長年の議論が続いてきた。しかしキャビテーション発生の初発段階となる、道管内部(とくに壁孔膜の周辺)での気泡核の生成と消失のふるまいに関しては、いまだに統一した見解は得られていない。
 この問題に加えて、樹木個体の水分動態の解析には、樹液流動を担う道管構造のサイズにかかわる問題も考慮する必要がある。道管の壁孔膜には数百ナノメートルの径をもつ細孔が存在し、この細孔が隣接する道管のあいだでの樹液の通路となっている。一方、一本の樹木は樹液の流路となる道管の集合体としてとらえることができるが、その高さは数十メートルに達する。つまり樹液流動態の解析には、7~8桁のサイズスケールからなる複数の構造を解析対象とすることが求められ、その全体像を解明することは容易ではない。
 そこで本研究では樹液の流動特性のより詳細な解明をめざし、野外に生育する落葉環孔性樹種のケヤキを対象とした樹液流動の多点同時計測を実施した。その結果、樹幹内に温度分布の周期変動を示唆する信号が検出された。そこでこの周期変動の実態を探るため、切り出した枝への吸引処理による樹液流動実験と、極細チューブによる単一道管内の樹液流のモデル実験を試みた。樹液流動実験では、負圧印加にともなう枝内部の水の挙動に対応すると推定される、複雑に変化する信号が得られた。また道管のモデル実験では、壁孔膜を想定した障壁の挿入により、断続的な水の流れが誘起された。これらの実験にもとづき、樹木体内の樹液流動特性の検出手順と得られる情報について検討した結果を報告する。


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