| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨 ESJ64 Abstract |
一般講演(口頭発表) F02-02 (Oral presentation)
ハゼやベラなどの魚類では双方向性転換が知られ、生殖腺の構造が種によって異なる。ほとんどの種では、機能的性の生殖腺のみを持ち、性転換時に他方の性の生殖腺へと作り替える。一方ベニハゼ属などでは卵巣と精巣の両方を持ち、機能的性の生殖腺を発達させ、非機能的性の生殖腺を退縮させる。両性生殖線を持つ利益は、社会的状況が変化した時、すぐに性転換を完了でき、繁殖活動に遅れが生じないという点である。しかし、その維持にはコストがかかり、繁殖成功の損失が生じるだろう。両性生殖線の維持が有利になるのはどのような時か、簡単なマルコフ連鎖モデルで説明する。
社会的状況の変化の起こりやすさ(優位雄の出現確率pと消失確率q)が雌雄の生殖腺構造を決める。遷移確率p, qがともに大きいと、性転換が頻繁に起こるので、雌雄両方が両性生殖線を持つのがよい。逆にp, qがともに小さい時、個体は機能的性の生殖腺しか持たない。pが小さく、qが大きい場合、雌化よりも雄化の方が頻繁に起こり、雄は雄生殖腺のみを持つが、雌は雄化に備えて両性生殖線を持つ。pが大きく、qが小さい時は、雄は両性生殖線を持ち、雌は雌生殖腺のみを持つ。
研究がよく進んでいる2種のハゼにおいて、遷移確率および死亡率、雌に対する雄の繁殖成功度を推定し、その値を使って雌雄の生殖腺構造をモデルで予測した。2種のデータとモデルの予測が一致するには、両性生殖線を持つコストは雌より雄の方がとても小さい必要があることがわかった。その理由は次の通りである。雄が雌生殖腺を持つことは雄の繁殖成功にそんなに影響がない。なぜなら、雄の繁殖成功は精子量にそれほど依存せず、むしろハレム防衛能力などに依存するからである。しかし雌が精巣を持ち、卵巣の領域を減らしてしまうと、生産できる卵の数が減り、雌の繁殖成功に大きな影響が出る。従って雌にとって、雄生殖腺を持つことは非常に大きなコストになる。