| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(口頭発表) F02-06  (Oral presentation)

ヤマトシロアリの有性・単為生殖初期コロニー間の相互作用

*北出理, 矢吹健太(茨城大学)

 ヤマトシロアリは実験条件下で2個体のメスがコロニー創設可能で、そのようなコロニーでは単為生殖が行われる。一方、私達が野外でニンフを生産する149巣を調査したところ、♀だけからなる完全単為生殖コロニーは全く見つからなかった。このため、もし単為生殖コロニーが野外で生じたとしても、その生殖虫の適応度は有性生殖コロニーに比べてずっと低いことが予測される。初期コロニーは野外で強く集中分布するため、単為生殖コロニーは強いコロニー間競争に敗れている可能性が高い。
 以上の点を検証するため、本研究ではまず、400の有性生殖(♂♀)コロニーと240の単為生殖(♀♀)コロニーを創設させ、300日後にそれらのコロニーのカスト・個体構成を調べた。続いて♂♀コロニーと♀♀コロニーの組を20組近接して営巣させ、90日間両者を相互作用させる実験を行った。
 300日後の生存率と平均コロニーサイズは、♀♀コロニーで♂♀コロニーのともに半分以下であった。ニンフ・ワーカー分化に影響する遺伝モデルが予測するように、ニンフとニンフ型生殖虫は♀♀コロニーだけで分化した。コロニーの相互作用実験の間に、8つのコロニーの組は完全に融合し、その多くで融合後に♀♀コロニー側の女王が2個体とも殺された。敵対的相互作用により完全なコロニー融合がおきなかった12組でも、そのうちの過半数で♀♀コロニー側の子の一部が♂♀コロニーへ移動した。相互作用期間中の生殖虫生存率は、♀♀コロニーでは♂♀コロニーの3分の1以下であった。
 この結果は、単為生殖コロニーが有性生殖コロニーとの種内競争において明らかに弱いことを示す。一方、コロニー融合や子個体のコロニー間の移動は野外で比較的頻繁に起きると考えられるため、単為生殖で生じた利己的な「ニンフ遺伝子型」個体が有性生殖コロニーへ侵入し、繁殖する可能性がある。


日本生態学会