| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(口頭発表) F02-07  (Oral presentation)

有性生殖が維持されている理由

*道下誠(九州大学)

多くの生物、特に多細胞生物では有性生殖が一般的である。では、何故有性生殖が維持されているかということについては、今の所一般解と言えるものがなく、謎とされている。この問題は約40年前に英国のメイナードスミスが"有性生殖の2倍のコスト"というコンセプトを提示してから議論が始まり、様々な仮説が提出されている。その中に(子の多様性に由来する)有性の多様性がその理由であるという考え方があった。それについて、メイナードスミスはコンピューターシミュレーションで解析し、2倍のコストを凌ぐ力とはなり得ないという結果を明らかにした。以来その仮説は人気を失い、現在ではほぼ棄却された形となっている。そのシミュレーションでは有性タイプと無性タイプからなる集団が競争し、その頻度を求めるものであるが、私たちは有性タイプにより多くの多様性を与えて(殆どの有性タイプは表現型も適応度も異なるようにした)、シミュレーションをリバイズした。その結果は、2倍のコストを凌ぐものであった。
私たちはまた、有性生殖が持つ力を計測した。一腹の子供の数(兄弟の数)をNとすると、有性タイプが無性タイプに対して持つ優位性(相対適応度)は基本的にはN / 2で表せることが分かった。
以上、有性生殖が維持されている理由の有力な候補として、有性の多様性を上げることができると考えている。しかし、このシミュレーションでは、いくつかの問題点がある。(1)競争は表現型(遺伝子型)のみで行われており、環境要素(偶然の運・不運)が考慮されていない。(2)両タイプともに当初より多くの表現型を保有している。(3)1つのパッチでは1個体のみが生き残るという前提(truncation selection)。次の研究課題として、上に述べた問題的を包含できるシミュレーションと解析を行いたいと考えている。


日本生態学会