| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨 ESJ64 Abstract |
一般講演(口頭発表) G01-01 (Oral presentation)
近年の温暖化による海水温の上昇は、魚類の生息域に影響を与えている。生物の生息環境における適応遺伝子を特定することは、今後の環境変化に対する集団の動向を予測する上で重要であり、生物の適応性を考慮した資源管理への応用が期待される。水産資源であるマダラは北太平洋沿岸に広く生息する冷水性の底生魚であり、日本近海が分布の南限となる。日本近海は暖流と寒流の行き交う多様な環境が存在するため、この海域のマダラは生息環境に対する適応機構の解明に適している。マイクロサテライトを用いた先行研究から、日本海側の南方集団とその他の北方集団の間で遺伝的分化が生じていることが示されている。これは、暖流と寒流の影響による環境差によって遺伝子流動が妨げられ、それぞれ異なる環境に適応している可能性がある。そこで、本研究では、RAD-seqを行い、検出した多数の遺伝マーカー(SNPs)を用いて日本近海のマダラの集団構造の評価と自然選択を受けたSNPs及び、その近傍遺伝子の検出を試みた。その結果、19集団234個体から1629 SNPsが得られ、マイクロサテライトの結果同様に南北の集団間で遺伝的分化が確認された。また、25 SNPsが自然選択を受けていると推定され、その近傍に46遺伝子が存在した。GO解析により運搬系の機能を持つ遺伝子が2つ検出され、また、酸素運搬機能を持つ遺伝子としてヘモグロビン遺伝子が検出された。そこで、ヘモグロビン遺伝子の配列決定を行い、分子動力学法によるヘモグロビンの構造比較を行った。その結果、α1-globin遺伝子に生じたアミノ酸置換によって、ヘモグロビン構造が南北の集団間で変化していることが示唆された。南方集団と北方集団は異なる海流が存在する海域に生息しているため、日本近海のマダラは環境適応に重要なヘモグロビン型を獲得しているのかもしれない。