| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨 ESJ64 Abstract |
一般講演(口頭発表) G01-12 (Oral presentation)
性比研究は、集団に属する個体がとる社会的行動を解釈する上で大きな貢献を果たしてきた。子孫を生産するのは雌であるため、集団全体の生産性は性比が雌に偏るにつれ向上するが、雌に偏った集団では雄を多めに産む個体のほうが繁殖成功を高めることができる。つまり、集団にとって適応的な雌偏向性比はふつう進化せず、個体にとって適応的な1:1性比が進化する。一方、局所的に少数の母親の子どうしが交配を行う生物では、局所集団の生産性を高めるため、雌に偏った性比が個体にとっても適応的であると考えられる(局所的配偶競争理論)。実際に、寄生バチの仲間では、局所集団の母親数が減少するに従い、子の性比が雌に偏ることが知られている。
しかし、寄生バチMelittobiaでは、これまでの実験室内で得られたデータによると、母親数に依存せず、一定して極端に雌に偏った性比(雄率1 – 3%)を示すことが報告されている。そこで、野外環境における性比を調べ、それぞれの局所集団における遺伝構造をマイクロサテライトを用いて解析した。その結果、(1) 母親は自分が生まれた局所集団から分散せずに産卵する場合は母親数に寄らず雌に偏った性比で産むが、他の局所集団から分散した場合は母親数が増えるに従い雄を多く産むこと、(2) 局所集団から分散しない場合は母親間の血縁度が高く、分散した場合は血縁度が低いこと、(3) 母親が分散せずに雌に偏った性比で産んでいる場合は、非血縁の母親が少数の雄のみを産むことがあることが分かった。つまり、母親は分散せずに血縁のある母親どうしで産む場合は、協力的に雌に偏った性比で産んで局所集団全体の生産性を高めるが、分散して非血縁の母親と一緒に産む場合は、利己的に雄率を高めて産んでいると解釈される。さらに、協力的に雌を多めに産んでいる局所集団では、非血縁の雌が入り込み裏切り的に雄のみを生産していることが示唆された。