| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨 ESJ64 Abstract |
一般講演(口頭発表) G02-11 (Oral presentation)
生物の中には、捕食者存在下でのみ、捕食防御形質を発現するものがある。これは誘導防御として知られている。これまで、異なる湖間など隔離された生息地間では、誘導防御に大きな差異があることが多く実証されてきた。一方、同一湖沼内など環境変化の小さい連続する局所環境間においても誘導防御に差異が生じるかは、検討されることが少なかった。しかし、捕食者密度は、局所環境間においても大きく違うことがあり、それが誘導防御の差異を生じさせているかもしれない。そこで本研究では、同一湖沼内における水草群落と開放水面という局所環境に着目し、両環境間で被食者生物の誘導防御に差異があるか、また、その差異の発生要因について検討した。
千葉県の印旛沼では、夏季に浮葉植物オニビシの繁茂が見られる。調査は、オニビシ繁茂前と繁茂期の両方で、オニビシ群落が成立する水面と開放水面で行った。ツボワムシは、その捕食者であるフクロワムシに応答して側突起を伸長して誘導防御する。体サイズに対する側突起長を防御形質とし、オニビシ群落が成立する水面と開放水面間で、プランクトン群集組成と防御形質の比較を行った。
ツボワムシの防御形質はオニビシ繁茂前には地点間差異が見られなかったが、オニビシ繁茂期には開放水面で大きかった。統計解析の結果、この防御形質に対し、誘導要因となるフクロワムシ密度のほか、ツボワムシとフクロワムシの両方を捕食するケンミジンコの密度が影響を及ぼしていた。これらの捕食者の密度は、オニビシの繁茂に伴い地点間差異が発生し、フクロワムシは開放水面で多く、ケンミジンコはオニビシ群落で多かった。
以上から、同一湖沼内の局所環境間においても、誘導防御に明瞭な差異が生じることが明らかとなった。また、この差異は、複数の捕食者が関与することにより生じていると考えられた。