| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨 ESJ64 Abstract |
一般講演(口頭発表) H02-04 (Oral presentation)
分布域の決定要因を明らかにすることは生態学の中心課題であり、気候変動が生物種に及ぼす影響を予測する上でも重要である。植物では、分布域の辺縁において繁殖成功度が低いことが繰り返し報告されており、分布域を制限する要因として重要だと考えられてきた。発表者は、北日本の落葉広葉樹林に生育する多年生草本オオバナノエンレイソウの生育密度や複数の適応度成分が、集団間で緯度に沿った地理的変異を示すことを明らかにした。具体的には、分布域の中心(石狩地方)で生育密度が最も高く、分布域の辺縁(東北・道北地方)では幼植物の加入率や種子の平均重量が低い(小さい)ほか、一部の集団では種子生産量が少ない傾向が見られた。分布域の辺縁において繁殖成功度が低くなるメカニズムには、(1)送粉効率が低いことによる花粉の不足、(2)受精後の胚珠の発達に必要な資源の不足、(3)遺伝的浮動による劣勢有害遺伝子の蓄積などが考えられるが、一般にその相対的重要性はよく分かっていない。
本研究では、分布域の辺縁に位置する4集団(東北・道北)と中心の2集団(石狩)を対象として、交配実験を行った。交配実験ではi) 集団内の他家受粉、ii) 集団間の他家受粉、iii) コントロール(無処理)の3つの処理を行い、その後の結実状況を調べた。その結果、中心の集団では処理間で種子の重量や生産量に違いは見られなかったが、辺縁(道北)の1集団では集団間で他家受粉を施した個体で種子の平均重量が大きかった。一方、東北地方の辺縁集団ではどの処理も結果率が著しく低かったが、開花から結実までに降水量が少なかったことが影響している可能性が考えられる。
以上のことから、分布域の辺縁において、有害遺伝子の蓄積が繁殖成功度の低下に寄与している可能性が示唆された。今後は、辺縁集団の遺伝解析や分布南限を対象とした交配実験を行い、本種の分布域の決定要因をさらに検証していきたい。