| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨 ESJ64 Abstract |
一般講演(口頭発表) H02-05 (Oral presentation)
開葉フェノロジーは落葉樹の生態的地位を特徴づける重要な生活形質である。例えば、開葉時期が早い樹種は、春と秋に明るい落葉樹林において高い耐陰性や競争力を持つ一方で、晩霜の影響を受けやすいと考えられる。また、着葉期間は森林の生産性を決める要素の一つであり、開葉フェノロジーに対する気候変動の影響を予測することが重要な研究テーマとなっている。このように、開葉フェノロジーについての知見は落葉樹種の生態的特性や森林生態系の機能的特徴を理解することに役立つ重要な情報であるが、開葉フェノロジーに影響する環境要因についての知見は蓄積されていない。冬期に寒冷となる温帯域の落葉樹の開葉フェノロジーについてみると、「冬の寒さ(寒冷な時期の長さ)」や「冬~春の暖かさ(積算温度や平均気温)」が、茎頂の休眠解除・活動再開・内的成長の制御を介して開芽・展葉日に影響することがこれまでに明らかにされている。しかしながら、このような開芽・展葉日と冬・春の寒さや暖かさとの関係が、樹木の温度環境に関わる消雪時期や晩霜頻度などの環境要因によってどのように変化するのかについての知見は少ない。本研究では、落葉高木種であるブナを対象に、青森県八甲田連峰の12地点で得た開葉フェノロジー・消雪時期・気温についての観測データに基づいて、開芽・展葉に要する積算温度が冬期の寒さや消雪日とどのように関係しているのかを分析した。分析の結果、開芽・展葉に要する積算温度が大きな場所間変異と年変動を示すことや、冬~春の寒さ(平均気温が氷点下以下となる日の日数)と開芽に要する積算温度との間に正の相関があること、そして、消雪時期(1/1から消雪日までの積算温度)とその時期の気温の両方が開芽に要する積算温度と関係していることが明らかとなった。これらの結果に基づいて、ブナの開葉フェノロジーの場所間変異と年変動に関する特徴とその生態的意義について考察する。