| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨 ESJ64 Abstract |
一般講演(口頭発表) I01-03 (Oral presentation)
近年、生物多様性に配慮した水田の管理法として、冬期湛水や、早期湛水、中干し不実施、水田ビオトープ実施といった水田の連続的な湛水管理が注目を集めている。しかし、これまで連続的な湛水管理が水田の生物群集に与える影響に関する知見は乏しい。本研究では、両生類(卵塊)、稲株のクモ類、底生無脊椎動物(底生動物)を水田の指標生物として、二耕作期にわたり、冬期から春先にかけての湛水管理(冬期-早期湛水)と初夏の湛水管理(中干不実施)がこれらの動物群集に与える影響を実験的に検証した。野外実験は、新潟県佐渡市の12の実験田(10 m × 6.5 m)を用いて行い、冬期―早期湛水の実施・不実施と中干しの実施・不実施を総当りで組み合せた4つの処理区を3反復ずつ無作為に実験田に割り当てた。結果、ヤマアカガエルの卵塊数は、冬期-早期湛水管理の不実施田と比べこれらの実施田で多く、また湛水管理1年目と比べ2年目でその影響がより顕著に現れた。クロサンショウウオの卵塊数は2年目になってはじめて冬期-早期湛水管理の影響が明らかになった。稲株に出現したクモ類のうちアシナガグモ属は、1年目より中干しの実施田と比べこれらの不実施田で生息個体数が多かったが、コガネグモ科への中干し不実施の影響は2年目になってはじめて明らかになった。一方、稲株のクモ類への冬期―早期湛水実施の影響は不明瞭であった。冬期―早期湛水の実施と中干しの不実施が底生動物の生息個体数や分類群数に与える影響は分類群によっても季節によっても異なったが、概して中干しの実施は多くの底生動物に負の影響を与えた。以上より、地域において多様な湛水管理を推奨することが水田の動物群集の多様性向上にとって好ましいと考えられる。今後、水田の生物多様性保全と米生産のトレードオフを考慮に入れた湛水管理法の検討が望まれる。