| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(口頭発表) I01-07  (Oral presentation)

山地渓流のダム下流における有機物分解の季節変動

*李彦達(九州大学大学院 生物資源環境科学府), 笠原玉青(九州大学大学院 農学研究院), 智和正明(九州大学大学院 農学研究院), 藤本登留(九州大学大学院 農学研究院), 大槻恭一(九州大学大学院 農学研究院)

 本研究は、有機物分解に着目し、山地渓流に建設されたダム貯水池の下流区間の有機物分解速度とその季節性を調査した。調査地は、福岡県遠賀川水系の犬鳴ダムの約340m下流地点(ダム下流)と、対照地点としてダムを持たない支流(自然下流)に設けた。有機物の分解速度は、綿布(95%セルロース)の引張強度減少率(%/d)を指標とし、2016年の各季節に測定した。また有機物分解に影響する要因としては、水温、流速、水生昆虫の密度などを考察した。有機物の分解速度は、ダム下流と自然下流の両地点において、夏に分解速度が速く、冬に遅いという季節性をもち、その変動幅も自然下流と同程度であった。分解速度は水温と正の相関があり、季節性には水温の変動が大きく影響している。しかし、ダム下流と自然下流で水温を比較すると、ダム下流が常に高かったにも関わらず、ダム下流の分解速度、2.59 %/d(±1.66)が自然下流の分解速度、3.47 %/d(±1.44)よりも有意に小さかった。そこで、流速や水生昆虫、また微生物の活動に影響する硝酸態窒素濃度を両地点で比較した。分解速度を調査した河床近くの流速は、河床に巨礫が多いこともあり、両地点において小さかったため、流速の影響は小さいと考えられた。水生昆虫の影響は、リターバックによる水生昆虫の採取と、粗細のメッシュサイズの差から算出した水生昆虫の分解への貢献度から考察した。ダム下流では、リターバックに集まった水生昆虫の個体数の数が有意に少なかった。また、水生昆虫の貢献度も、ダム下流では季節変動が大きく、自然下流に比べて小さかった。硝酸態窒素濃度は、梅雨時期を除き、ダム下流の方が低く、微生物増殖による分解速度も、ダム下流において小さいことが示唆された。本研究の結果から、ダム下流の有機物分解速度は、自然下流と同じように季節変動するが、遅かった。その要因としては水生昆虫と微生物による摂食分解がダム下流では小さいことが考えられた。


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