| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(口頭発表) I01-11  (Oral presentation)

草原性植物群集形成における時間軸と空間軸の交点を探る:過去の景観変化がもたらすβ多様性の変化

*小柳知代(東京学芸大学), 古川拓哉(森林総研), 大澤剛士(農環研)

景観変化(生息地の消失など)と種の分布域の変化との間には、長いタイムラグが存在する場合がある。生息地の一部が消失した後に、絶滅が遅れて生じることによる種数の減少量を絶滅の負債(extinction debt)と呼び、空間軸と時間軸の両面から、絶滅の負債が検出される条件について研究が進められてきた。本研究では、草原性植物群集を対象として、絶滅の負債が検出される空間スケールとそのメカニズムを明らかにすることを目的とし、異なる2つの群集形成規則(入れ子構造と種の入れ替わり)に着目した分析を行った。研究は、かつて採草地等として利用された半自然草原が広がっていたことが知られている足柄下郡箱根町を対象として行った。サイト(約500m四方)、グリッド(約100m四方)、ライントランセクト(10m)の3つの階層における草原性植物の種数を目的変数とし、1910年代、1950年代、1970年代、2000年代の4時期の草原面積との関係を一般化線形混合モデルを用いて検証した結果、サイトスケールでのみ現在の草原性植物の種数と過去の草原面積とが有意な正の関係性を示した。また、種組成の非類似度指標を用いてβ多様性を入れ子構造と種の入れ替わりの要素に加法分割し、これらをPCoAを用いてそれぞれ序列化した結果、入れ子構造に伴う種組成のばらつきと過去の景観との間に有意な関係性が認められた。以上の結果から、景観変化に伴う種の応答のタイムラグは、広域的な空間スケールで検出され、入れ子構造の解体(種の欠落)を背景として生じていることが示唆された。


日本生態学会