| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(口頭発表) J01-06  (Oral presentation)

絶滅危惧種オガサワラハンミョウ生息地における外来樹とそのリター除去による環境再生の効果と再導入試験の成果

*苅部治紀(神奈川県博), 森英章(自然環境研究センター)

オガサワラハンミョウ Cylindera bonina は、小笠原父島列島固有種で、父島産の戦前の標本で記載されたが、1980年代の兄島での再発見までは長らく「幻の甲虫」として扱われていた。生息環境が海岸ではなく台地上の乾性低木林内に点在する裸地だったことや、成虫期が秋季だったことが発見を遅らせた要因であろう。
 再確認後しばらくは安定して多数が見られ、新産地も続々と見つかったが、2000年代になって各地から急速に姿を消し始めた。父島のように侵略的外来捕食者(グリーンアノールやオオヒキガエル)が生息していなかった兄島での激減要因の解明は時間を要したが、急速に島内に繁茂したモクマオウ、リュウキュウマツの大量の落葉が裸地を被覆し、幼虫の生息域を奪っていったことが主要因と考えられている。その後も減少が止まらなかったため、2000年代後半から生息地での外来樹木の枯殺を進め、同時に生息地を被覆するリターの除去も開始し、系統保存技術の開発、マニュアル化を行った。2010年代には内地の昆虫園の協力を得て域外保全も開始した。2014年には総巣穴数500頭程度まで減少して絶滅が危惧されたことから、2015年に本土、および父島産の域外繁殖個体の野生復帰を開始した。2015年に27頭、2016年には41頭を、環境改善した過去の生息地に放逐した。放逐地では少数ではあるが産卵および幼虫が確認でき、2016年秋の調査時には、前年の野生復帰個体由来と考えられる新成虫1頭が初めて確認された。小笠原の昆虫類では、野生復帰個体由来の初の羽化事例と考えられる。
なお、外来樹の枯殺やリターの除去などの生息域内の環境改善により2016年には幼虫の個体数も2000頭程度まで回復させることができたが、本年度秋からの異常少雨の影響も心配されている。今後の課題としては、サテライト産地の環境再生、飼育個体の羽化時期のコントロールなどが挙げられる。なお、本研究の一部は環境省環境研究総合推進費4-1402及び環境省事業として実施された。


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