| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨 ESJ64 Abstract |
一般講演(口頭発表) J01-07 (Oral presentation)
歌才湿原は北海道南部の黒松内低地帯に残存する希少なミズゴケ湿原である。標高は約95m、面積は4.5haで、国道によって南北に分断されている。湿原周辺および湿原内には排水路が掘られ、排水によって残存湿原の乾燥化が進行している。1996年と2015年の植生比較によりハイイヌツゲやササの拡大が顕著であることが明らかになっている。そこで残存湿原の劣化を防ぐために、排水路に堰を設け、地下水位上昇による湿原変化を長期的にモニタリングし順応的管理を行うことにした。本発表では、堰上げ以前の現存植生と地下水位、堰上げ以降の1年目の水位変化について報告する。
湿原周辺と湿原内に掘られた規模の異なる3本の排水路に直交する調査測線を2015年4月に設け、排水路から距離に応じて複数個所で水位の継続測定を行った。2015年10月に北部の2本の排水路に堰を設け、調査測線上の水位変化を継続測定した。植生については、排水路の測線上のところを含む残存湿原全域の73個所で植生調査を行い、植物群落を区分した。すべての調査地点でGPS測量を行い、3本の調査測線の地形や水位データは標高で示した。
解析の結果、残存湿原の植生は4つに区分され、3本の測線上の植生はそれぞれ異なっていた。規模が大きい排水路の周辺はハイイヌツゲやササの繁茂が著しく、規模の小さい排水路の周辺は残存湿原中央部の健全な植生に類似していた。ただし、どの測線でも排水路に近いほど地盤沈下が見られた。堰上げ以前の地下水位は、3本の測線とも排水路から距離が近いほど、水位低下が著しく、水位変動も大きかった。しかし、その変化は規模の大きい排水路ほど顕著であった。堰上げ後、水位の上昇は見られたが、その効果は排水路の近傍だけであった。植生の変化は水位上昇より遅れて現れると考えられることからも、堰上げによる地下水位と植生の変化に関して長期のモニタリングが必要である。