| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(口頭発表) J01-12  (Oral presentation)

代替生活史戦術の進化に干渉型競争が与える影響

*堀田淳之介(九州大学理学部生物学科), 立木佑弥(京都大学ウイルス再生医科学研究所, 九州大学大学院理学研究院)

ある種の生物が複数の生活史戦術を使い分けることはよく知られている (代替生活史戦術)。たとえば、多くのサケ科魚類は、河川に残る残留型と、海に下る降海型に分かれる。この選択は稚魚の時期になされ、体サイズが大きいほど残留型を選ぶ傾向がある。この傾向は、状態依存戦略モデルによって理解されており、各戦術を採用したときの期待適応度が意思決定時の体サイズの関数となっている場合、より適応度の高い戦術を採ることで実現する。この概念に基づくと、各戦術の期待適応度関数の交点は戦術が切り替わる閾値サイズとなる(閾値モデルと呼ばれる)。
閾値モデルは代替生活史戦術をよく説明することから、地球温暖化後のサケ科魚類の漁獲高予想にも用いられている。ある研究では、温暖化により稚魚の平均サイズが大きくなった結果、降海型の出現割合が減少すると予想している。この先行研究では、温暖化による餌資源量の改善がサイズを増加させると考えているが、河川では、餌場を奪い合う干渉型競争が知られており、栄養価の高い餌がある川の表層付近は大型個体により占められ、小型個体は川底の餌を食べる。よって、このような河川内における競争関係を考慮した上で平均サイズの変化、ひいては降海型割合の予測が求められる。
そこで、本研究では、数理モデルを用いて、河川での密度依存的な競争を考慮した稚魚サイズモデルを提案し、代替生活史戦術の意思決定に与える影響を議論する。これに加えて、環境の変化に対して生物は進化的な応答も示すことから、温暖化によって、サイズの変化が見られた際、閾値を進化的に変化させる可能性がある。その結果、閾値の進化速度が環境変動に比べて遅い場合には代替戦術の割合が劇的に変化してしまうが、進化速度が十分に速いか、環境変動が十分に遅いならば、代替戦術割合はそれほど変化しないと考えられた。


日本生態学会