| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨 ESJ64 Abstract |
一般講演(口頭発表) J01-13 (Oral presentation)
同じ砂浜で産卵するアカウミガメでも、小型個体ほど外洋で浮遊生物を、大型ほど浅海で底生動物を摂餌する傾向がある。浅海摂餌者は外洋摂餌者よりも2.4倍多く幼体を産出することと、摂餌者間で中立マーカーにおいて遺伝的構造がみられないことから、多型は条件戦略で維持されていると考えられている。しかし外洋摂餌者由来の子供の、地上に出現してから最初の繁殖に至るまでの期間の生残率が2.4倍高ければ、適応度が釣り合うため、維持機構の再考を要する。本研究では、母親の餌場が違えば、子供の上記期間の生残率に関わってくる、初期体サイズ、活動性、成長速度、及び死亡率に差異を生じるのかを、同一環境で孵化飼育することで検証した。
2014〜2016年春夏に、屋久島永田浜において、本種の産卵個体調査を実施した。小型と大型が産んだ卵塊を、一晩に1〜3対、浜上部の孵化場へ移植した。2014年は小型16巣と大型15巣を、後の2年は小型と大型各10巣ずつを移植した。巣から1卵を採取し、安定同位体分析に供した。8月に脱出幼体を捕らえ、体サイズを計測した。2016年は、幼体をひっくり返して元に戻るまでの時間と傾向を測定するとともに、1巣につき1頭の幼体を水族館へ輸送し、同一環境で飼育した。
炭素・窒素安定同位体比に基づくと、2014年は外洋摂餌者が14個体、浅海摂餌者が17個体いた。2015年は外洋9、浅海11で、2016年は外洋10、浅海10だった。2014年と2015年は、孵化幼体の甲長・甲幅・体重、及び巣からの脱出成功率に、摂餌者間で有意な違いはなかった。2016年は外洋摂餌者由来の幼体の方が、甲長・甲幅・体重が有意に小さく、巣からの脱出成功率が有意に高かった。自己修復傾向及び時間、また幼体の成長速度と死亡率に有意差はなかった。これらの結果は、摂餌者間での適応度の不釣り合いや、回遊多型の後天性を強く示唆した。