| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(口頭発表) J02-01  (Oral presentation)

半自然草原の植物多様性の保全: 耕起・刈取りの有効性検証

*小黒和也, 田中健太(筑波大学菅平高原実験センター)

 人為撹乱によって維持される半自然草原の生物多様性が世界的に注目されている。しかし、撹乱管理法と多様性との関係は十分に分かっておらず、特に日本のスキー場のように主に刈取りによって維持されている半自然草原では、実験的研究がほとんどない。大規模地形改変や外来牧草導入のないスキー場には絶滅危惧植物が多数生息するが、スキー場管理のための秋一回の刈取りだけでは競争種が優占し、多様性が減る可能性がある。本研究は、半自然草原の植物多様性を低労力で保全する管理方法確立を目標とし、草刈りと耕起が(1)優占植物種を減らすか、(2)植物の多様性を高めるかを、実験的に検証した。
 長野県の峰の原スキー場の1調査地で2014-2016年の3年間、菅平高原スキー場の3調査地で2016年の1年間、調査を行った。各調査地に、スキー場の通常管理と同様に毎年10月に刈取りする対照区、毎年二回刈取りする実験区、初年のみ耕起を行う実験区を設け、各調査地・各処理区に各20の1m2調査区画を設けた。調査年の6・8・9月に、各区画内の維管束植物各種の存在と繁殖有無を調べた。2014・2016年の9月には、各区画の0.1×1mを地際から刈取り、植物全体および優占種であるススキの乾重を量った。
 植物全体とススキの乾重は、全ての調査地で刈取り区や耕起区で減少した。対照区における優占度が低い種ほど、撹乱操作によって出現する区画の割合が高まった。しかし、撹乱操作によって特定の生活型の種が増える一貫した傾向はなく、外来種も増えなかった。処理区全体の広域種数は、峰の原では耕起区で最も大きくなる傾向があり、それ以外の3調査地では二回刈取り区で対照区よりも有意に多かった。複数の処理区の混合状態をシミュレーションすると、ほとんどの場所・年で対照区より広域種数が有意に多く、人為撹乱を組み込んだ複合的な草原管理が、植物の多様性保全に有効である。


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