| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨 ESJ64 Abstract |
一般講演(口頭発表) J02-04 (Oral presentation)
飼育個体を野外に放つことは、絶滅危惧個体群の回復のためにしばしば行われ、水生生物では、水産資源の維持・増殖のために行われることも多い。放たれた個体の成長は、施策の成否の判断基準の一つであり、密度(一般的に高密度にさらされる)や飼育環境に適応した特性(行動・形態など)の影響を受けることがある。サケ科魚類サクラマスは、準絶滅危惧種であるが、水産重要種でもあり、資源増殖のための放流が続けられている。しかし、その効果は十分でないというのが関係者間の共通認識である。ここで、演者らの先行研究では、本種について密度依存型競争が顕著に現れたことから、放流後のサクラマス稚魚についても高密度による成長阻害が生じていると考えた。このことを確かめるために、2016年5月から7月にかけて北海道尻別川水系目名川で野外調査を行った。
一連の調査では、放流河川と非放流河川(比較対象として自然再生産由来の「野生魚」が生息)に調査定点を設け、潜水観察を行った。潜水観察では、まず定点内の魚類個体数を計数し、さらに攻撃個体の合計を記録した。また、調査定点周辺でサクラマスを採捕し、体サイズ(尾叉長)を記録した。これらの調査を4回繰り返した。
その結果、尾叉長は放流魚の方が野生魚よりも小さく、その差は経時的に大きくなった。すなわち、放流魚は野生魚よりも低成長であると考えられた。密度は全体を通じて放流河川の方が非放流河川より高かった。また、攻撃回数は、中程度の密度で最多となったが、放流河川と非放流河川間では違いは検出されなかった。以上より、放流魚が野生魚よりも低成長であったのは、行動特性の差異ではなく、密度依存型競争に起因すると考えられた。さらに、サケ科魚類の競争様式は密度増加に伴い消費型競争よりも干渉型競争の影響が強まると考えられていたが、本研究ではさらに密度が高まると干渉型競争は弱まることが示された。