| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨 ESJ64 Abstract |
一般講演(口頭発表) J02-07 (Oral presentation)
メコン川をはじめ東南アジアでは,近年になって水力発電ダム開発が進み,陸水生態系への影響が懸念されている.一方水力発電は,CO2排出削減・地球温暖化防止の文脈で語られることもあるため,社会的に独立の問題ではない.本研究では,水力発電ダムや温暖化が,東南アジアの「インドビルマホットスポット」(メコン中下流域+チャオプラヤ流域+ミャンマー東部)において,当該地域の重要な生物資源である淡水魚にどのような影響を与えるかをよるシミュレーションで予想した.シミュレーションでは,ダム開発や温暖化の程度などを変えた計370のシナリオについて検討した.各シミュレーションでは,淡水魚363種1571地点における各種分布データと,ダムや温暖化に関する環境レイヤーを用い,各種の生息地適地モデルをMAXENTにより算出した.解析の結果,これ以上ダム開発を進めるとラオスで平均35%,カンボジアで平均22%,また場所によっては最大で60%ほど,魚類種数が減少することが予測された.一方温暖化は,各所のアルファ多様性を高める反面,各種の分布域を狭めて多くの絶滅危惧種を新たに生み出すことが示唆された.さらにダム開発と温暖化が同時に進行すると,魚類の水温の低い上流への移動がダムによって阻害されるため,両者は生態学的にも独立の問題ではない.両者を同時に考慮したシナリオでは魚類種数に対する負のインパクトは10-20%前後高められ,無視できないレベルであることも予想された.