| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨 ESJ64 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-A-002 (Poster presentation)
体色斑(色彩や模様)が隠蔽色として機能する動物種では,生息地間で背景の色特性が異なる場合,体色斑に集団間の表現型分化が生じうる.集団間の表現型分化は,分化選択,表現型可塑性,集団間の遺伝子流動によって促進・抑制される.トゲマダラカゲロウ属幼虫は渓流に生息する底生動物であり,体色斑に種内変異が観察される.渓流の河床の色特性は地質により異なるため,本属幼虫の体色斑は隠蔽色として機能し,集団間で体色斑の表現型分化が認められる可能性がある.本研究では,分布が重複し,生活環が異なる本属5種幼虫を対象とし,体色斑の集団間の表現型分化と隠蔽機能,表現型分化を促進・抑制する要因について明らかにすることを目的とする.
各種について,体背面の明色部の大きさを反映した3~5の体色斑型に分類した.3種について生息地河床の明度と体色斑型構成の集団間変異の関係が認められた.魚類捕食者は,明色底質では明色部の小さな個体を,暗色底質では明色部の大きな個体を選択的に捕食したことから,集団間の表現型分化は体色斑の隠蔽機能により促進されていると示唆された.飼育実験により,2種について背景の色特性に応じた体色斑の可塑性が認められた.しかし,体色斑型が変化した個体は認められなかったことから,集団間の表現型分化は,可塑性よりも分化選択によって促進されている可能性が高い.いずれの種においても,明色部の大きな個体と小さな個体の両方が存在した集団の割合は80%以上であり,ミトコンドリアDNA・CO1領域の遺伝的変異は集団内変異により50%以上説明された.このことから,本属各種の集団間の遺伝子流動は大きく,それが集団間の表現型分化を抑制し,集団内多型を促進していると示唆された.体色斑の集団間の表現型分化の種間差は,種の幼虫出現期の順序と対応しており,魚類捕食者の捕食圧や攪乱の季節変化に伴う分化選択の強度の種間差により生じていると考えられる.