| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨 ESJ64 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-A-003 (Poster presentation)
突然変異の多くは有害であり突然変異率は低い方が良い。しかし、正確に複製するために複製エラーの修復を厳密に行うと複製速度が遅くなる。細菌やウイルスなどでは複製速度が速い程増殖速度が速い。従って、複製速度と複製の正確さのトレードオフは細菌やウイルスにおける突然変異率の進化を考える上で重要な視点である。本研究では、複製速度と複製の正確さのトレードオフの下で、突然変異率がどのように進化するのかという問題についてシミュレーションにより解析する。
モデルでは2分裂する単細胞生物を仮定した。そして個体毎に競争力遺伝子と修復力遺伝子を定めた。競争力遺伝子は個体間競争の強さに関わる。修復力遺伝子はエラー修復力と分裂間隔に関係する。分裂間隔が小さいもの程増殖速度が速い。一方、修復力が大きい程、分裂間隔が大きく増殖速度が遅い。個体の分裂時に一定割合で競争力遺伝子又は修復力遺伝子に突然変異を起こし、競争力・修復力の値を増加又は減少させた。修復力の値が上昇すると分裂間隔も増加し、低下すると分裂間隔も減少する。ただし、個体の修復力の大きさに応じて増加変異・減少変異の一部を修復することができる。この過程を繰り返し、集団中で形質がどのように変化していくのかを見た。
突然変異のうち増加変異と減少変異の割合を1:1にして突然変異による形質の変化量の平均を0にした場合、競争力は増加し修復力は低下した。結果的に、分裂間隔は下限付近まで減少した。一方、競争力の減少変異の割合のみ大きくして競争力が著しく減少する条件を作り出すと修復力は上昇した。そのため分裂間隔は大きく増加した。つまり、競争力が減少しにくい条件では修復力が弱く分裂間隔が小さい方が有利であり、著しく減少する場合には修復力が強く分裂間隔が長い方が有利である。
この様に、複製速度と複製の正確さのトレードオフ存在下では有害変異の大きさによって異なる突然変異率が進化する。