| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-A-006  (Poster presentation)

女王階級の無いアミメアリにおける内勤・外勤個体間の卵巣発達状態の比較

*荒木鞠那(宇都宮大学), 宮川(岡本)美里(宇都宮大学, 岐阜大学), 宮川一志(宇都宮大学)

 真社会性膜翅目昆虫であるアリのコロニーは一般に、女王アリ・雄アリ・ワーカー(全て雌)からなり、集団は効率的に維持されている。しかし、アミメアリPristomyrmex punctatusは他のアリと異なり女王や雄が存在せず、単為生殖を行う遺伝的に同一なワーカーのみでコロニーを形成するため、ワーカー内で労働個体と繁殖個体が存在する(繁殖分業)。遺伝的・形態的な差の無い本種においてこの繁殖分業の仕組みを調べることで、社会性の成立に必要不可欠な要素の理解に迫ることが出来ると期待される。
 本研究ではまず、野外のアミメアリのコロニーおよび実験室で継続飼育しているコロニーにおいて解剖により卵巣発達状態を比較することで繁殖分業の様子を確認した。その結果、両方で個体間に顕著な卵巣発達状況の差異が見られたため、続いてアミメアリにおいて卵巣発達を制御する分子機構を解明するべく、卵巣発達マーカーの確立を行った。他の昆虫では卵巣発達と共に発現することが知られている卵黄タンパク質(VTG)及びVTG受容体(VTGR)遺伝子の部分配列を単離し、その発現量が個体の卵巣発達状態と相関するかを解析したところ、VTGにおいて顕著な正の相関が見られた。一方で、VTGRについては卵巣発達状態を反映することは無かった。また、VTGの発現量が高かった個体はすべて飼育巣の中心部から採取したものであったことから、中心部にいる個体とそれ以外の個体で繁殖への投資に差があることが示唆された。さらに、分子マーカーVTGを利用した遺伝子発現解析によって、VTGの上流で卵巣発達の有無を制御していると思われる因子の探索を行った。得られた結果を元に、アミメアリにおいて進化した特異な繁殖分業システムの背景に存在する分子機構について考察する。


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