| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨 ESJ64 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-A-007 (Poster presentation)
ハワイ諸島のミツスイやショウジョウバエのように、著しく多様な種分化を遂げている生物群が存在し、それらは適応放散の事例と考えられている。適応放散の現象は、ニッチへの適応やそれをめぐる競争などの生態的過程と関連して考えられることが多かった。しかし、たとえば生態的形質とは関係のない異所的種分化の繰り返しで多種が出現する非適応放散や、性選択など他の適応的な要因によっても、同じような適応放散のパターンは生じうる。よって我々は、生態的ニッチや競争に関わる形質のダイナミクスがない状態で、空間構造をもつ生態系で交配形質の生物間相互作用のみを想定するだけでも、繰り返し生殖的形質置換が起こることを通じて、多様な生殖形質を持つ種群が生まれうるとの仮説を立てた。モデル解析では、交配に関する生物間相互作用と群島のような空間構造の2つの要素に着目し、1種から多種への種分化モデルを個体群ベースモデルとして構築した。各個体群は交配前隔離の形質 (mating形質) と、接合後隔離の形質 (zygotic形質) の2種類を別々に持つとする。 群島での個体群の他島への移出には、移出を試みる個体群が隣り合う島へのみ移出することのできる飛び石モデル (Maynard Smith 1989) を二次元に拡張した格子モデルを用いた。
解析の結果、2種類の交配形質の生物間相互作用と空間構造のみを想定するだけでも多様な形質値を持つ種が次々と発生しうることが分かった。また、中間の移出率において平衡種数が最も多くなり、mating形質の遺伝分散と移出率が共に高い場合には生殖的相互作用がより迅速な種分化や種多様性の増加をもたらすことが分かった。さらに、途中で移出率が変化する条件下では、移出率が一定の場合より大幅に大きい最大種数や、爆発的に種数が増大したあと一旦種数が減ってから平衡状態の種数へ落ち着くパターン (overshooting) が観測された。