| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-A-009  (Poster presentation)

タビラにおける繁殖寄生と関連した雌産卵形質セットの進化

*林寿樹(福井県大・海洋), 北村淳一(三重県博), 永野惇(龍谷大・農, JST さきがけ, 京大・生態研セ), 手塚あゆみ(龍谷大・農), 小北智之(福井県大・海洋)

繁殖寄生を行う生物では,宿主シフトと関連した表現型多様化の例は珍しくない.さらに,宿主シフトには,一見独立した複数の繁殖・初期生活史形質の表現型適応が必要であることが多く,表現型レベルの適応度地形に複数の頂点が存在することになる.それでは,このような複合的な形質の適応頂点シフトには,どのような形質発現機構や進化機構が関与しているのだろうか.
タナゴ亜科魚類は,淡水二枚貝類に托卵するという繁殖生態をもち,卵形,卵サイズ,産卵管(貝に卵を産み込む器官)の長さといった産卵形質の表現型値に大きな種間変異が認められる.その中でも,タビラ類には,このような産卵形質セットに顕著な種内(5亜種間)変異が存在し,この形質セットの分化には,宿主シフト(利用する産卵母貝種シフト)と関連した適応的側面が示唆されている.
本研究では,このような形質セットの適応分化における遺伝的影響と可塑性の影響について検討した.まず,産卵形質セット(卵形,卵サイズ,産卵管長)が異なるタビラ2亜種の交雑家系を作出し,F2世代における形質間の関係を精査したところ,これらの形質は独立した遺伝基盤で生じていることが判明した.さらに,RAD-SNPを用いたQTLマッピングを行ったところ,卵形のみに中程度の効果をもつ有意なQTLが検出された.次に,野外において,産卵形質の形質値を繁殖期を通して連続的に測定したところ,卵形の形質値は,雌の体サイズや季節を問わずほぼ一定していたが,卵サイズと産卵管長にはかなりの可塑性が存在し,卵サイズと産卵管長の環境応答性が大きいことが示唆された.このように,卵形の適応頂点シフトには,遺伝的変異が不可欠であるが,卵サイズと産卵管長の適応頂点シフトは,始めに可塑的な応答として適応的な形質値が出現し,後からそれを安定化するような遺伝的同化によっても達成可能であることが示唆された.


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