| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-A-014  (Poster presentation)

性はなぜ維持されるのか:シロアリにおける遺伝的多様性喪失のコスト

*藤田忠英, 南波佑介, 松浦健二(京大院・農・昆虫生態)

性がなぜ維持されるのかは進化生態学における最も重要な課題の一つである。実証的研究の多くは実験室内において有性生殖集団に対する単為生殖集団の相対適応度を算出し、有性生殖集団はより適応度が高いことを示してきた。しかしながら、実際の生息環境下で単為生殖集団と有性生殖集団の間に適応度の差が存在するかを検証することは性の維持を考える上で欠かせないにもかかわらず、室内実験と合わせて野外で相対適応度を検証した研究は殆どない。ヤマトシロアリは、女王が有翅虫生産に有性生殖と単為生殖の両方を使うため、本研究に理想的な系である。本研究は、野外条件下と室内環境下のいずれにおいても、単為生殖で生産された有翅虫は有性生殖で生産された有翅虫に比べて相対適応度が低いことを示した。ヤマトシロアリの単為生殖は末端融合型で、単為生殖で生産された個体の遺伝子型はほぼ全てホモ型になる。野外でコロニー創設の前後に有翅虫を採集し、マイクロサテライト解析から個体群中に占める単為生殖で生産された有翅虫の割合を推定したところ、コロニーから飛び立った単為生殖で生産された有翅虫がコロニーを創設できる確率は、有性生殖で生産された有翅虫に比べておよそ1/6しかないことが明らかになった。一方、実験室内において有翅虫を個別に30日間飼育した後、各個体についてマイクロサテライト解析を行った結果、単為生殖で生産された個体は有性生殖で生産された個体に対して有意に死亡率が高かった。さらに、単為生殖で生産された個体は有性生殖で生産された個体に比べて生重量が有意に小さかった。これらの結果は、単為生殖で生産された有翅虫における適応度の著しい低下により、ヤマトシロアリにおける絶対単為生殖の進化が制限されていることを示唆する。本研究は性の維持における遺伝的、生態的制約の重要性を実証的に示したものである。


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