| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨 ESJ64 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-A-015 (Poster presentation)
形態進化を駆動する要因の一つに捕食者との相互作用があり,昆虫ではさまざまな種で捕食を防ぐ機能を持つ形態が知られている.しかし,防衛形態が近縁種間で多様化する現象が認められるなど,特定の捕食者を想定するだけではその進化を説明できない場合がある.カメノコハムシ亜科は棘や扁平縁といった多様な外部形態を持つ種を含む分類群である.これらの形態は捕食者に対する防衛と考えられているが,近縁種間で異なる防衛形態が生じるメカニズムはよくわかっていない.
本研究では,捕食様式の異なる捕食者に対する適応が防衛形態の多様化をもたらすとの仮説のもと,カメノコハムシ亜科の防衛形態がどの捕食者に対して機能するかを検証した.捕食者は突き刺し型・噛み付き型・丸呑み型の3タイプを想定した.ハムシは棘および扁平縁を持つ種でそれぞれ形態を操作し,棘あり・棘なし・扁平縁あり・扁平縁なしの4タイプを用意した.これらを各捕食者に与えたところ,棘では丸呑み型に対して有意な防衛効果が見られた.一方,扁平縁は突き刺し型と噛みつき型に対して有意な防衛効果,丸呑み型に対して弱い防衛効果が見られた.この結果から,棘が狭い範囲の捕食者に機能するスペシャリスト形態であるのに対し,扁平縁はより広いタイプの捕食者に機能するジェネラリスト形態であることが示された.また,本亜科の系統樹上でこれらの防衛形態の進化過程を推定したところ,棘が1回起源であったのに対し,扁平縁は複数回起源していた.複数の系統で同じ形質が進化するということは,その形質が遺伝的浮動により偶然に生じたのではなく,その形質を持つことが何らかの利益をもたらした可能性を示唆しており,扁平縁が棘よりも広く機能するという捕食実験の結果を支持している.