| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨 ESJ64 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-A-020 (Poster presentation)
北東アジアの環日本海地域は、南北に伸びる日本海をユーラシア大陸と日本列島が囲む特異的な地形から成る。この地域は旧北区の中でも独自の鳥類相を示し、多数の種内で大陸と列島間の深い分子系統の分化が近年示唆されている。しかしながら、環日本海地域を包括した研究は未だ進んでいない。本研究ではカケスGarrulus glandariusを対象種とし、ミトコンドリアDNAマーカーを用いた系統地理学的解析により、系統分化の時代背景、及び現在の遺伝的構造を創出した集団動態の解明を目的とした。
その結果、カケスでは「アジアから欧州に分布する複数亜種を含む大陸系統」と「日本産亜種(G. g. japonicus)の列島系統」の分化が種内の最も初期のイベントとして確かめられ、これは更新世前期に相当した。この系統分化の時代背景は日本列島の形成完了かつ氷期―間氷期サイクルの始まりに特徴づけられるため、大陸と列島を繋ぐ陸橋の形成・消滅が分化の引き金となった可能性がある。
一方、北東アジアに生息する大陸系統(G. g. brandtii)と列島系統(G. g. japonicus)の遺伝的構造はそれぞれ最終氷期に影響を受け、同調した集団収縮とその後の一斉放散を経験したことが示唆された。加えて、遺伝的多様性の地理的分布とカケスの生態的特徴から、大陸と列島それぞれの南部に最終氷期のレフュージアの存在が示唆された。これらから、大陸・列島間で日本海を挟んだ、南北に並行的な集団動態が、本種の系統分化と地域特異性の維持において大きな影響を与えたと推察された。
鳥類における南北の移動は、短期的(季節の渡り)にも長期的(集団史)にも現在の遺伝的集団構造を決定づける重要な要素である。本研究で示唆されたカケスの集団史と同様に、環日本海の独特な地形構造と第四紀の気候変動に伴った大陸・列島間での並行的集団動態が、同地域の鳥類多様性創出において重要な役割を果たした可能性があると考えられる。