| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨 ESJ64 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-B-062 (Poster presentation)
植生は草食獣の採食に強い影響を受け、森林では草食獣(ここでは主にシカを取り上げる)の採食によって更新が阻害されることもある。一方で、シカの不嗜好性植物が林床植生として成立することもある。このような不嗜好性植物の群落は、樹木の稚樹を採食から守るNurse plantとして機能するともいわれる。
シカの採食から高木の実生を保護するための対策として、多くの場所でシカの個体数管理や防鹿柵の設置が行なわている。多くの植物にとって、柵設置は回復に効果があるが、採食下においてみられたNurse plantによる効果は、柵の設置後にも継続されるのか、という点は明確ではない。本研究では、樹木の実生・稚樹、不嗜好性林床植生の特徴そしてシカの採食といった3者の相互作用について考えるため、1)採食下において Nurse plant の効果はあるのか? 2) 防鹿柵の設置後、その効果は継続されるのか?という2つの問いについて、調査を行った。
宮城県石巻市金華山島において、15本のトランセクト上に1m×1mのプロットを合計160プロット設置し、高木種の実生の高さ・個体数、光環境、不嗜好性林床植物の高さ・被度を調査した。それらのデータから、高木種の実生の高さ・実生の個体数を説明する要因について、GLMで解析をおこない、AIC最小のものを最適モデルとした。
その結果、樹木の実生は、シカ柵設置前にはNurse plant 効果によって採食の影響から逃れていたが、その効果には樹種間の違いがあった。一方、シカ柵設置10年後では、出現稚樹密度、種数ともに増加することが確認され、特にNurse plant のない場所の萌芽・稚樹が多いことが分かった。逆に、Nurse plant やそれに混生していたほかの低木類の生育が、実生の生育を阻害する可能性が示唆された。
以上の結果から、防鹿柵の外側ではNurse plant 効果がみられるものの、防鹿柵設置後にはNurse plant 効果は継続されず、むしろ負の効果をもたらすと考えられる。