| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨 ESJ64 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-B-063 (Poster presentation)
補償成長とは、損傷を受けた植物が、損傷のない植物と同程度に成長する現象で、地下部の損傷についての知見は少ない。また、人工切除と昆虫の植食に対する反応は、葉では異なるが、根ではほとんど検討されていない。栄養塩分布に応答し局所的に根が増加するホソムギでは、局所的な撹乱に対して、根が補償成長し、その成長は撹乱の範囲や要因によって異なる可能性がある。本研究では、「仮説1;根の補償成長は、撹乱されていない部位での根の増加によって生じる」、および「仮説2;根の補償成長は、人工切除と植食で異なる」を提唱し、首都大学東京のビニールハウスでの栽培実験で検討した。
ホソムギを播種し、30日後に撹乱処理として根の人工切除やドウガネブイブイ幼虫による植食を施した。約50日目に処理ごとに刈り取り、乾燥後に秤量した。撹乱処理前に測定した地際径を共変量とする共分散分析で乾燥重量に対する処理の効果を検討した。
人工切除実験では、根の切除箇所からの距離で根の重量が異なるかを検討した。根の切除を1要因とし、切除の有無の2水準を設けた。根に対する切除と植食の比較実験では、撹乱要因と撹乱範囲を2要因とし、植物の反応が異なるかを検討した。2強度の切除と植食と対照(撹乱無し)の4水準の撹乱要因と、昆虫移動を制限する網の有無の2水準の撹乱範囲を設けた。
人工切除実験では、切除から離れた場所に分布した根の重量は、切除の有無で異ならず、また個体重の補償成長も見られなかった。そのため仮説1は支持されなかった。比較実験では、切除と植食で、重量に明確な違いが見られなかった。しかし、植食のみで2個体の枯死が見られ、仮説2は一部が支持された。以上より、ホソムギの根の切除後、撹乱から離れた場所での根の増加は見られず、根への切除と植食では植物の反応は大きく異ならない可能性が示された。