| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨 ESJ64 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-B-068 (Poster presentation)
花蜜を採餌する訪花者のように、同じ場所で再補充される報酬を利用する動物にとって、報酬の量と場所を関連付けて覚える連合学習は、採餌者の採餌効率を高めると考えられている。しかし、学習に基づく行動には、時間的なコストがかかることも指摘されている(速さと正確さのトレードオフ)。そこで本研究では、速さと正確さのトレードオフが、マルハナバチによる報酬量と位置の連合学習に与える影響を検討した。
実験は、ショ糖液の分泌速度が異なる球形の人工花(高報酬花と低報酬花)計28個を、45cm間隔のハニカム状に配置した採餌場で行った。ここにクロマルハナバチ(Bombus ignitus) のワーカーを1匹ずつ放し、3050回の訪花が行われるまでビデオカメラを用いて追跡した。人工花は、直径が2cm、6cmのいずれかのものを用いた。このとき、隣の花の視直径は、それぞれ7.6°と2.5°となる。マルハナバチの最小視直径は3~5°であるため(Spaethe & Chittka 2003: J Exp Biol 206 3447-3453)、直径2cm 、6cmの人工花を用いた実験は、それぞれ、隣の花が見つけやすい状況(素早い花間移動が可能)と、見つけにくい状況(素早い花間移動は不可能)に相当する。
実験の結果、花が小さい時(2cm)には、経験と共に高報酬花を選択的に利用するようになっていった。このため、花が小さい時には、単位時間あたりの採餌量(採餌効率)は経験とともに増加した。一方、花が大きい時(6cm)には、そのような傾向は見られなかった。ただし、花が大きい時には、花間の移動時間が短かったため、実験期間を通じて、採餌効率は花が小さい時よりも高かった。
これらの結果は、素早い採餌が可能なときには、学習を行うことが必ずしも最適ではないことを示唆している。動物にとっては、学習を行うかどうか自体が、状況に応じて選択すべき戦術なのではないだろうか。