| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-B-070  (Poster presentation)

花の向きは訪花者相の’フィルター’として機能しうるか? 〜操作実験による採餌行動の比較〜

*高野美幸(筑波大・生物), 大橋一晴(筑波大・生命環境系)

被子植物の花がもつ色や形は、動物との相互作用により進化したと言われる。花の「向き」もその1つである。定説では、下向きの花は逆さにとまるのが苦手な昆虫を遠ざけ、逆さにとまるのが得意なハナバチの訪花を増やすとされる(田中1997)。たしかに野外では、下向きの花にはハナバチが多い。しかし、種間では向き以外にも異なる点が多く、花の向きが訪花者の偏りをどこまで説明するかは定かでない。そこで演者らは、花の向きが多様な分類群(キイチゴ属、アザミ属)で、花の向きを反転させる操作実験を行った。

その結果、上向きの花を下に向けるとハナアブとチョウの訪問が減ると共に、花から落ちるなどして滞在が短くなった。同時にハナバチの訪問も減るものの、その減少率は小さかったため、定説通り下向きの花ではハナバチがやや優占した。ただし、元来下向きに咲くモミジイチゴの花は、そのままでもハナアブが訪れ、また上に向けても訪問は増えなかった。これは、下向きでも昆虫がとまりやすい花があること、つまり下向きという形質が、特定の訪花者の排除とは別の利益で進化する場合もあることを示唆する。
また、ハナバチは他と異なり、下向きの花で滞在が延びた。さらに、ノハラアザミ(背が低い)では上向きの花を好むものの、ナンブアザミ(背が高い)では下向きの花を好んだ。ハチの花選びは、とまりにくさよりも、他の形質と向きの組合せに影響されるのかもしれない。たとえばハチは、飛行高度より低い位置に咲く下向きの花、あるいは高い位置に咲く上向きの花には、気づきにくい、または近づきにくい可能性がある。

以上、本研究は、花の向きに関する定説を支持する実験的証拠を示した。また種間比較により、花の向きが他の形質との思わぬ相互作用を生じる可能性も示した。今後も実験を重ね、送粉生態学で不足しがちな実証例を提供すると共に、花形質の「意味」を包括的に捉え直してゆきたい。


日本生態学会