| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨 ESJ64 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-B-074 (Poster presentation)
花を咲かせる植物の多くは,昆虫を中心とした動物に花粉の運搬(送粉)を依存しているため,効率的に送粉されるように花を昆虫へ適応させることで多様化を遂げてきたと考えられている.一方で,同じ植物種であっても,場所や時間帯によって送粉者が違うことによって異なる花形質が獲得されることがある.本研究では,昼夜に訪花者がみられるミズチドリについて,昼夜で変化する送粉者ごとの送粉効率(質)と訪花頻度(量)を調査し,送粉者の違いが花の適応度に及ぼす影響を明らかにした.
今回,2015年と2016年の7月中旬から8月にかけて乗鞍高原の2集団と開田高原の1集団の計3集団について調査を行った.カメラのインターバル撮影による訪花観察の結果,1)3集団で共通して夜間にはヤガ科キンウワバ亜科の種が訪花していた.2)乗鞍高原の集団では夜間のガ類しか訪花しなかったが,開田高原の集団では昼間にもチョウ類の訪花が見られた.3)開田高原では,昼間のチョウ類の方が夜間のガ類よりも訪花頻度が低かったが,乗鞍高原のガ類に匹敵する頻度であった.4)開田高原では,株あたりの花粉の持ち去り率(オス適応度)も結果率(メス適応度)も,ガ類のみが訪花した場合の方がチョウ類のみが訪花した場合よりも高く,結果率については約10倍になった.したがって,夜間のガ類が最も有効な送粉者だと考えられる.ただし,5)ガ類のみの場合よりもガ類とチョウ類の両者が訪花した場合の方がオス・メス適応度は高く,開田高原ではガ類だけでなくチョウ類も送粉者として機能している可能性が示唆された.
以上の5つの結果から,ミズチドリではヤガ科キンウワバ亜科のガ類が質的にも量的にも主要な送粉者であり,一部の集団ではチョウ類も送粉に貢献している可能性が示唆された.