| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨 ESJ64 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-B-075 (Poster presentation)
植食性昆虫では異なる寄主の利用が強力な生息場所隔離として作用することが知られているが、近年、そのような資源分割を促進する要因として繁殖干渉が注目されている。カメノコハムシ類(Cassida spp.)の数種では種間交尾が生じることが知られていることから、このグループでは一般的に行動的隔離が不完全であり、これが繁殖干渉として作用する可能性が示唆される。カメノコハムシ類では各種が利用する寄主に様々な程度の重複がみられるが、より近縁な寄主を利用するハムシ種間、あるいは互いに近縁なハムシ種間ほど行動的隔離の発達の程度は小さい可能性がある。そこで本研究では、“カメノコハムシ類が示す異なる寄主利用が繁殖干渉によって促進あるいは維持されてきた”という仮説を立て、その検証の第一段階として、ヒユ科・キク科・シソ科植物を寄主とする6種のハムシを対象とした室内実験の結果を、寄主の類縁およびmtDNA COI領域の部分配列に基づいて推定したハムシの系統関係とあわせて考察した。
各種の成虫にいずれかの植物の葉を与えたところ、ヒユ科食の2種が互いの寄主を摂食したものの、残りの4種は野外で通常利用している寄主のみを摂食した。同種あるいは異種の雌雄成虫を組み合わせ、交尾行動を観察したところ、異種ペアの殆どの組み合わせで雄によるアプロ―チ行動が観察され、複数種間で種間交尾が成立した。一方で、利用している寄主植物が遠縁な種間ほど交尾が生じにくい、あるいは、近縁なハムシ種間ほど交尾が生じやすいという傾向は無いようであった。
カメノコハムシ類の寄主選好性は一部の種を除いて明瞭に分かれていた一方で、寄主植物およびハムシの類縁とは無関係に様々な種間で行動的隔離が不完全であったことから、潜在的には多くの種間に繁殖干渉が存在することが示唆された。これは、カメノコハムシ類が示す異なる寄主利用が繁殖干渉によって促進あるいは維持されてきたという仮説と矛盾しない。