| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨 ESJ64 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-B-078 (Poster presentation)
近年、シカの個体数が増加し森林に対して大きな影響を与えている。シカによる樹皮食の頻度は樹種間で大きく異なることが知られているが、シカの樹皮に対する嗜好性を決定している要因はよくわかっていない。樹皮の形質は嗜好性の重要な決定要因である可能性が高いが、形質と嗜好性の関係の解明には、まず樹皮形質の可塑性を把握する必要がある。そこで本研究では成長段階と季節にともなう樹皮形質の可塑性について検証した。
シカによる樹皮剥ぎのデータが蓄積されている北海道大学苫小牧研究林において、主要樹種30種を対象に機能形質を測定した。2月と8月に、閉鎖林冠下の若木と林冠に達した成木それぞれ約3個体から樹皮を採取した。物理的な形質として、樹皮の厚さ、密度、樹皮を幹から引き剥がすのに必要な力(剥離強度)、一度に剥がれた樹皮の長さ(剥離長)を測定した。化学的な形質として可溶糖分、デンプン、タンニン、フェノール、炭素、窒素の含量および含水率を分析した。一般化線形モデルにより、成長段階と季節、およびその交互作用が各形質に与える影響を検証した。
成木では若木と比較して、樹皮の厚さの絶対値と剥離強度が大きくなる一方、相対的な樹皮の厚さは低下していた。夏に採取した樹皮に比べ、冬に採取した樹皮では含水率の低下が見られた。また、可溶糖分が増加した一方で、デンプンはほぼ検出されなかった。糖類の総量には季節変化は見られなかったことから、冬季にはデンプンが可溶糖分に変換されていると考えられる。変化の見られた形質のいずれについても成長段階と季節性の交互作用は検出されなかった。発表では窒素量、炭素量も加えた結果を考察する。